ブックレビュー 【言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか】
今日は、ナイツ塙さんが書いた『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』(集英社新書)ブックレビューをしたいと思います。
言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書) [ 塙 宣之 ] 価格:902円 |
私はお笑いが大好きです。M-1も好きですが、普段は水曜日のダウンタウンが特に好んで見てます。下品な笑いを好んでいる自分がお笑いの本を語るので、「何言ってんだこいつ」と思われるかもしれませんが、大目に見てください。
この本は、今やM-1の審査員をつとめているナイツ塙さんがM-1について分析している一冊です。
舞台では小ボケを繰り返していますが、笑いに関してとことん突き詰めた塙さんが真剣にM-1について語っています。
M-1で関東芸人が勝てない理由を、自身がM-1で優勝できなかった言い訳として書いています。「言い訳」と言いつつ、その分析は凄まじく、M-1に出て結果を残してきた芸人の殆どをこの本は分析しています。
まさに、新しい漫才界のバイブルになる一冊ではないでしょうか。
まず、本の中で、M-1のことを
M-1は100メートル走
と例えています。
寄席では一人の待ち時間が10〜15分ある。それに対して、M-1の決勝では4分しかない。(予選ではもっと短いそうです。)
「寄席を1万メートル走としたらM-1は100メートル走。それくらいの違いがある」と塙さんは言います。
その4分の中で笑いを生み出さなくてはならない。そのためにはネタの速さと会場を巻き込む強さが必要であると。
その点で言えば、関西には魔法ワード
「なんでやねん」
があります。
塙さんは『日本の方言の中で、最大の発明』と評しています。どんなボケでも「なんでやねん」と突っ込めば一瞬で笑いが生まれる。関西ではその笑いが日常生活に広がっている。
「漫才の本場は関西であり、漫才の母国語も関西弁である」
と塙さんは語ります。
速さと強さが必要なM-1では、「なんでやねん」というパワーワードが使える関西芸人が有利でしょう。加えて、方言の方が感情を込めやすい。漫才での掛け合いが自然に見えます。確かに、関東だと漫才のような掛け合いを生活の中で見ることはほとんどありません。
今までのM-1で非関西芸人が優勝したのは、過去15回のうち、アンタッチャブル、サンドイッチマン、パンクブーブー、トレンディーエンジェルの4組です。
それらのコンビは自身の強みをネタに込めて渾身の4分間を演出しました。
しかし、トレンディーエンジェルを除いて3組はいわゆるコント漫才。やはり、関東芸人ではしゃべくり漫才は難しいのでしょうか。
私もしゃべくり漫才の方が好きです。自然にネタに入るので、演技している感じがないのが好きな理由です。「今から面白いこと話すよ」という雰囲気を出されちゃうと引いちゃいます。だから、ミルクボーイが優勝した時は嬉しかったですね。
でも、コント漫才でも綺麗な入り方をするネタは好きですし、関東出身の僕からしたら関東芸人に頑張ってもらいたいです。
ナイツは関東芸人では珍しくしゃべくり漫才をされています。それでもやはり、ヤホー漫才に行き着くまでには相当な苦労をしたと書かれています。
強さのないなかで小ボケが自分の武器であると気づき、好きな野球や相撲の話の中に小ボケを挟んで、土屋さんがその都度訂正する。
実際、ヤホー漫才を手にしてから、数々のショーレースで優勝するようになり、以前は予選止まりだったM-1では決勝まで進むようになりました。
関東芸人でも、自分の武器を揃えて戦えば関西芸人とも勝負できる
というヒントをこの本の中に後輩へ残しているのではないでしょうか。
ただ、同時に、M-1が全てではないと塙さんは語っています。
オードリー、南海キャンディーズはどちらも優勝はしていませんが、どちらも歴代の優勝者と同じかそれ以上に売れています。
M-1は全ての芸人が一度は目指す山であり、全てを賭けたくなってしまう場所であることを塙さんは自身の経験から理解しつつも、
自分が面白いと信じることで、お客さんを笑わせること
それが本来の芸人の使命であるという思いを本を読んで感じました。
コロナで暗くなった今年。そんな暗いムードを年末にどのような笑いで吹っ飛ばしてくれるのか、今から楽しみです。